研究概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,全喫煙者の約10%の'喫煙に対する感受性'を持つ群にのみに発症する,末梢肺構造が慢性的に破壊される疾患である。我々はその病態の進行において注目されている好中球主体の気道炎症の成立のメカニズムについて,健康喫煙者と疾患群(喫煙感受性群)に分けて検討していた。また,この結果を英国での結果と比較して欧米と我が国の同疾患の成り立ちの差異も検討している。平成18年度は,この実験の再現性や信頼性を検討した。本年度(最終年度)は,英国人と日本人の結果に関して,詳細な比較検討を行った。 末梢血好中球がもつ既知の化学遊走因子(f-MLP(10^<-8>mol/l)やIL-8(10^<-8>mol/l))に対する化学遊走活性をCOPD発症患者(喫煙感受性群)の重症度,人種別に検討した。対象とした健康非喫煙者(HC),健康喫煙者(HS),軽症COPD患者(mildCOPD),重症COPD患者(severe COPD)の数は,英国人群で13,11,5,12名,日本人群で4,5,4,7名であった。F-MLPに対する好中球遊走能は,英国人群においてsevere COPDではHCに比べて低下しており(P=0.002),日本人群においても同様の傾向にあった(mildvs.severe COPD;P=0.05)。IL-8に対する好中球遊走能に関しては英国人群ではHC,HS,mild,severe COPDの間で有意差は認めなかったが,日本人群においてはsevere COPDではHC(P=0.007)やmild COPD(P=0,004)に比べて低下しており,日英のデータを合わせて検討するとsevere COPDではHC(P<0.01)やmild COPD(P<0.05)に比べて低下していた。以上より,同じ人種群で見ると,末梢血液中の好中球の遊走能力には,f-MLPとIL-8の間で差異が認められた。また,f-MLPに関しては日英群各々で見るとCOPDが重症になるほど遊走能が低下しており,細菌感染に対する防御能力が低下する可能性が日英患者で共通に示唆された。IL-8に関しては,日英間ではCOPDの重症度と好中球遊走能の関係には差が認められた。このことより,日英間でCOPD患者の好中球の遊走機能に差が存在する可能性が示唆された。
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