研究概要 |
破骨細胞は骨吸収によりカルシウムなどのミネラル成分の動員を行い、骨代謝の恒常性を維持するため合目的かっ系統的に骨合成とのバランスを厳密に調節している。しかしながら、骨破壊が亢進すると骨代謝維持機構が破綻し、これが成因となって骨粗鬆症などの骨代謝疾患を引き起こすため、高齢化社会に伴う国家・国民の保険医療制度の負担を減らすためにも破骨細胞の制御機構の分子機序解明により、新たな骨代謝に関わる分子標的をコントロールし治療・予防に役立てることは重要な課題である。 研究代表者はこれまで骨吸収に必須の破骨細胞マーカーであるカテプシンK遺伝子発現をモデルとして、p38MAPキナーゼを介した多段階制御とその破骨細胞分化の特異性決定機構を明らかにした。本研究ではさらにこの事実がカテプシンK以外にも、RANKL処理によって誘導されるTRAP, OSCAR, calcitonin受容体,NFATc1遺伝子の発現がp38依存的であることから支持されることが示唆された。破骨細胞分化のマスター制御因子NFATc1の発現にもp38MAPキナーゼが重要であることが明らかとなった。従って、破骨細胞分化過程においてNFATc1の発現ならびに転写因子として機能を果たす時にも、p38MAPキナーゼが多段階で制御していると考えられる。一方、過剰な骨破壊を引き起こさないよう破骨細胞分化または機能をコントロールすることは新たな治療戦略を考慮する上で重要である。代表者は破骨細胞内の転写因子pax6がRANKL刺激により発現誘導するTRAP遺伝子の発現を制御すること、破骨細胞にpax6を過剰発現させた結果、破骨細胞数が減少することを見出した。この分子機序に関して、Pax6がDNA結合依存的に転写抑制因子Groucho-related factor(Grg)と複合体を形成し転写抑制に寄与している可能性が示唆された。さらに、IL-4,IFN-gammaなどの破骨細胞分化の抑制因子ではpax6のmRNA発現は有意に増強されず、むしろ破骨細胞分化の進行に伴い増強されていることから分化が過剰に促進されないよう自らブレーキをかけるように自己制御しており、pax6/Grg複合体による分化抑制はHipk2などのpax6をリン酸化による制御する調節因子の存在を現在検討している。以上より過剰な骨破壊を防ぐために備わっている新たな自己管理機構を標的とする治療薬開発が期待される。
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