研究概要 |
マラリアは世界で最も多く、最も症状の重い感染症の一つである。遺伝疫学的な研究はヘモグロビン異常症の分布の偏りはヘモグロビン異常症のマラリアに対する抵抗性に由来すると示唆している。研究代表者はサラセミアの遺伝子治療の研究している際に、サラセミアの形質がヒトの胎児ヘモグロビンを発現するトランスジェニックマウスのヒト胎児ヘモグロビン発現量を著しく増大させることを発見した。(2.68%±0.40% vs. 13.68%±1.19%)(Nishino et al, British Journal of hematology 2006)この結果よりサラセミア自体がマラリアに抵抗性があるのではなくサラセミアになるとヒト胎児ヘモグロビンの発現量が著しく増大するために、間接的にサラセミアがマラリアに対する抵抗性を獲得するのではないかと着想した。以上の仮定の下に研究代表者は野生型(γ--β++)、ヒト胎児ヘモグロビントランスジェニックマウス(γ+-β++)、ヒト胎児ヘモグロビントランスジェニック・サラセミアハイブリッドマウス(γ+-β+-)にマウスマラリア(P.berghei)感染赤血球を10^4個、腹腔内投与した。(各々n=3)投与後10日目に感染赤血球数を調べたところ、ヒト胎児ヘモグロビントランスジェニック・サラセミアハイブリッドマウスは他の2群と比べて明らかに感染赤血球数が少なかった。(γ--β++35.7±19.56%,γ+-β++30.2±6.03%,γ+-β+-13.8±5.86%)その後、それらのマウスの生存期間を調べたところ、ヒト胎児ヘモグロビントランスジェニック・サラセミアハイブリッドマウスは他の2群と比べて明らかに生存期間が長かった。以上の結果よりサラセミアのマラリアに対する抵抗性はサラセミア自体によるものではなく、サラセミアから誘導される高γグロビン血症によるものと考えられた。
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