研究課題
若手研究(B)
本年度は17年度に引き続きデータの蓄積を行い、全データを対象に解析を行った。対象は、大阪大学医学部附属病院神経科精神科の外来に通院中のPTSD患者7名。年齢23-38歳の男女。SSRIを8週間以上服薬した上で、PTSD症状が持続しており、本治療研究の参加を希望した者。いずれの患者も、研究について十分に説明を受けた上で、研究参加に同意する意志を書面にて表明した。精神疾患の診断基準DSM-4に基づいた症状評価尺度であるCAPS-DXは7例の平均が92点と高く、いずれもPTSDと診断された。全例薬物療法を継続しながら、EMDRを施行した。1人につき7〜10セッションのEMDRを行った結果、いずれも症状は改善し、CAPS-DXは平均35点となった。EMDR施行前後で、H_2^<15>O-PETによる脳賦活検査と、ロールシャッハ・テストなどによる心理学的状態の評価を行った。PET賦活検査では、外傷体験を想起させる内容の文章を聴覚的に提示した。対照課題として、情動的に中性な患者の体験を文章にして提示した。情動賦活課題と対照課題をpseudo-randomな順に反復して行い、PET測定とともに心拍数、主観的な恐怖の尺度を記録した。PETの結果として、EMDR開始前は右扁桃体と小脳虫部の賦活が有意にみられた。EMDR後にはそれらの賦活は消失していた。EMDR前後の比較では、EMDR前に小脳虫部の、EMDR後には右前部帯状回の相対的な活動の高さが示された。ロールシャッハ・テストでは、EMDR前に全例に共通して顕著にみられたのがMoR反応(Morbid反応:損傷反応)であったが、EMDR後には全例で消失した。PTSDの症状の改善前後で、客観的な指標の明らかな変化を捉えることができた。EMDRが心理学的な変化をもたらす際に、その基盤として生物学的な水準でも変化が生じていることが示された。
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