研究概要 |
鼻腔原発の悪性リンパ腫は、従来、進行性鼻壊疽、致死性正中肉芽腫などと呼ばれ、壊死を伴い浸潤性の発育を特徴とし、治療抵抗性の疾患とされてきた。1990年代に入りその多くが悪性リンパ腫であることが判明し、血管破壊性に腫瘍が増殖するという特徴から、1994年のREAL分類ではAngio-centric T-cell lymphomaと命名された。その後の分子生物学的検索により、本疾患ではT細胞受容体の再構成が認められず、NK細胞の表面形質であるCD56が高率に陽性であることから、2001年のWHO分類ではExtranodal NK/T-cell lymphoma,nasal typeとされた。本疾患では高率に Epstein-Barr virus(EBV)感染が腫瘍細胞に認められることが知られており、本疾患の発症および予後に関連があると考えられる。したがって本研究は鼻腔NK/T細胞性リンパ腫において治療前後および経過観察中の患者血清中のEBVDNA量と予後の関連を検討することを目的とした。昨年度は当院で治療した35例のExtranodal NK/T-cell lymphoma, nasal typeの治療成績を検討した。その結果、5年の時点で累積生存割合、無増悪生存割合、局所制御割合はそれぞれ47.3%,42.9%,65.2%であった。局所制御には放射線治療は有効であり、50Gy以上の照射線量が望ましいと考えられた。さらに、鼻腔のみに限局した照射野では不十分であり、鼻腔に加えて上顎洞など周囲の副鼻腔まで含めた照射野を用いることが重要であることが示唆された。照射線量に関する考察はこれまで幾つか報告されているが、照射野の重要性を確認した報告は皆無であり、今後の本疾患に対する治療において重要な知見である。本疾患の発症頻度の低さのため十分な検体を確保して、研究を促進することができなかったが、本年度はこれまで採取した6名の鼻腔NK/T細胞性リンパ腫における血清中のEBVDNA量の変化を測定した。治療中の増悪などにより、2名で治療後の評価が不可能であった。解析数が少ないため、これまでのところ血清中のEBVDNA量の変化と予後についての断定的な関係は確認できていないが、今後もさらに検討を続けていく予定である。
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