研究概要 |
神経膠腫は、成人脳腫瘍でもっとも頻度の高い疾患であるが、その治療成績はいまだ極めて不良である。脳という組織の特異性から手術による治療成績の向上には限界があり、今後治療成績を向上させるためには、これら細胞死誘導補助療法に対する抵抗性獲得のメカニズムを解明、克服することが急務である。腫瘍細胞に細胞死抵抗性を賦与する分子の中で神経膠腫において特に注目されるのがPI3Kである。しかしながらPI3Kは様々な細胞機能発現に関わっているためPI3Kを治療抵抗性克服の標的とすることは副作用の面から難しい。本研究においてPI3Kの下流のシグナル伝達を担うmTORが神経膠腫細胞の生存維持、治療抵抗性に関わるkey分子であるかどうかの検討を行った。神経膠腫培養細胞(U251,A172,T98G)にPI3K阻害剤(LY294002)、mTOR阻害剤(Rapamycin)前処理した後、抗がん剤(vincristine, etoposide, CDDP)処理を行ったところ、PI3K阻害剤にて前処理した場合、明らかに細胞死の増強効果が認められたが、mTOR阻害剤にて抑制した場合には、細胞増殖抑制効果は認められたものの、優位な細胞死の増強効果は認められなかった。各細胞株のPTENの変異やAkt経路の活性化状態と細胞死増強効果には相関は認められなかった。本研究結果は、第2回World Federation of Neuro-Oncologyにおいて発表した。最近になり、Rapamycinでは抑制されないmTOR経路が存在する(mTOR-Rictor)との報告があることから、上記の実験結果からmTORが薬剤耐性のkey moleculeでないと結論することは出来ないと考え、siRNAによるmTOR経路の阻害を試みている。
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