研究概要 |
痙性対麻痺の中枢性の機序として,持続的なα運動ニューロンの活動亢進が認められる.その原因として,A)脊髄抑制性介在ニューロンの欠落,機能不全.B)末梢からの反射(Hoffman reflex)増加によるα運動ニューロンの活動亢進.C)脊髄内の小型細胞によるα運動ニューロンの活動亢進.D)虚血で活性化された神経膠細胞によるα運動ニューロンの活動亢進などが挙げられる.主に脳性麻痺の小児に対して行われている選択的後根切断術が,下肢の痙性を減少させるという報告がある.これはB)の減少を目的に行われているが,B)が,痙性麻痺の原因に於いていかなる割合を占めるかは明らかにされていない.A)以外の原因では,活動亢進に関係する受容体としてNMDA受容体が知られており,その活動を賦活化する一酸化窒素(NO)が注目されている.脊髄梗塞後の脊髄内誘導型NO代謝酵素増加(Stagliano et al.,1997;Brain Res.)や,脊髄外傷後に神経膠細胞由来NO代謝酵素が増加する(Wada et a1.,1998;J.Neurosurg.)ことが報告されている.痙性麻痺におけるNOの役割,原因に占める割合もまた明らかにされていない,そこで我々は以下の項目について実験した.1)痙性麻痺に対する後根切断術の効果を痙性測定装置を用いて評価し,痙性におけるHoffman reflexの割合を推察する.2)痙性に対するNO代謝酵素阻害薬の治療効果と,痙性麻痺の進行過程でNOがどのように誘導,増加するのかを評価するため,脊髄組織切片を虚血終了から経時的に作成し,免疫染色を行うことにした。これにより,痙性麻痺の発現機序を解明し,それぞれの原因の痙性に占める割合を推察することで,治療の指標にすることが可能になると考えている.
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