研究概要 |
頚動脈小体(CB)の形態および機能的個体差が低酸素性呼吸応答(HVR)の遺伝的個体差に強く関与していることをこれまでに明らかにし,本研究では近交系マウスであるDBA/2J系マウス(DBA/2J : HVRが良く,発達が良く,形態も正常なCBを有する)とA/J系マウス(A/J : HVRは悪く,CBは小さく,正常な形態が保たれていない)のCBの形態および機能的個体差について検討した。 【形態的個体差】DBA/2JとA/Jの間にglial fibrillary acidic proteinのmRNAの発現量に差は認められなかったが,glial cell-derived neurotrophic factorのtnRNAの発現量に差が認められ(DBA/2J>A/J),このことが両近交系マウスのCBの形態的個体差に関与している可能性が示唆された。 【機能的個体差】DBA2/JのCBでは,正常なglomus細胞(GC)が多く観察され,そのGCの電圧依存性カリウムチャネル(Kv channel)の低酸素への感受性が強いことが示唆された。また,DBA/2JのGCのKv channelでは,アレチルコリンによって調節されており,電圧依存性カルシウムイオン活性型カリウムチャネル(BK channel)が重要な役割をしていた。一方,A/Jでは正常のGCは極わずかしか観察されず,Kv channelの低酸素への感受性も低いことが示唆された。DBA/2JとA/JにおけるGCのBK channelの分子生物学的個体差を比較したところ,BK channelのsubunitの発現に差(DBA/2JではA/Jと比較してBKαとBKβ2の発現量が多く,BKβ2に対するBKβ4の相対的な発現量が少ない)が観察され,このことがGCの低酸素への感受性の個体差に寄与していることが疑われた。
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