研究概要 |
子宮内膜症は性成熟期女性に高発する良性疾患であり、日常臨床で頻繁に遭遇する。近年、子宮内膜症は増加傾向にあり、その要因は生活環境、食生活、ストレスなど様々である。 子宮内膜症増加に伴う問題は、性成熟期女性の月経困難症、不妊症の原因の一つになる他、特に近年子宮内膜症の内膜上皮細胞には、病理学的に細胞形態は良性でも、遺伝子レベルでは染色体異常(特に17q染色体の異常、Loss of Heterozygosity)が頻発していると報告されており、これは重要項目である。その理由は、卵巣癌の中でも子宮内膜症の合併が高率であると報告されている卵巣明細胞癌(OCCA)及び卵巣類内膜腺癌(OEMC)は、既存の卵巣上皮細胞からではなく異所性病変である子宮内膜症が発生源となっている可能性が高いとされており、子宮内膜症は細胞の性質によって、前癌病変となる可能性が否定できないと思われる。以上の背景より、今回の課題では子宮内膜症を合併するOCCA,OEMC組織中の、形態的には良性の子宮内膜症(END)をへて、良悪性の境界的形態をもつ異型細胞(Aty)へと変化し、非浸潤癌から浸潤癌(Ca)へと連続して変化する4症例について、ステロイドホルモン(Estrogen Receptor(ER),Progesterone Receptor(PR))感受性を免疫組織学的に検討した。その結果、OEMCではEND,Aty,Ca全ての部位に染色性が認識されたが、OCCAのCa部位では全く染色性は認められず、Aty部位で僅かに認識され、END部位では他のEND細胞と同様に認識された。さらに形態学的に良性の子宮内膜症細胞でも、卵巣嚢腫中またはOCCA,OEMCに伴って出現する細胞では、遺伝子レベルで違いが検出されるかをp53遺伝子について、子宮内膜症細胞のみマイクロダイセクション法にて単離し、シークエンス解析した。その結果、形態学的には良性に見える子宮内膜症細胞でも、卵巣嚢腫中及びOEMCに出現する子宮内膜症細胞にはp53遺伝子に変異は検出されなかったが、OCCAに伴って出現する細胞には13例中4例に変異が検出され、そのうち2症例は2箇所に変異が検出された。これらの結果より、子宮内膜症から発生するとされているOCCA,OEMCは、ステロイドホルモン感受性からの離脱や、病理細胞形態学的には良性でも遺伝子レベルでの違いが、良性、悪性及び性質の異なる別の組織型の腫瘍へと変化する一つの要因になっているのではないかと推察された。
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