研究概要 |
ヒト口腔から分離されるグラム陰性桿菌であるSerratia marcescensは,易感染性宿主に重篤な日和見感染症を引き起こすことが知られている.申請者は,S.marcescensの主たる病原因子として,同菌の細胞壁外膜に保有される内毒素性リポ多糖の活性中心であるリピドA分子に注目し,これら日和見感染症における宿主・寄生体相互作用についての一端を明らかにするために,S.marcescensリピドAを単離・精製し,その化学構造ならびに宿主(細胞)における認識活性化機構について前年度に引き続き検討を行った. リピドAの化学構造はMS解析により分子量1621.9のピークが主であることを明らかにした.さらにMS-MSスペクトラム解析によりS.marcescensリピドAは1,4'位にリン酸残基を有し,β(1-6)グルコサミンジサッカリド骨格の2位に炭素数14の直鎖脂肪酸鎖,ならびに2',3'位に炭素数14のアシルオキシアシル基を含んでいる5本鎖脂肪酸鎖をもつ構造であることを明らかにした.また,宿主(細胞)における認識活性化機構について,Endospecyによる計測ではS.marcescensリピドAは大腸菌型合成リピドAである化合物506と同程度のリムルス活性を示した.また,サイトカイン産生はELISAにて検討し,その結果,S.marcescensリピドAは,マウス由来マクロファージからのTNF-α,IL-6およびKC産生を誘導したが,これらサイトカイン産生はTLR4機能欠損マクロファージではみられなかった. 前年度に報告した結果と併せて,S.marcescensリピドAの化学構造を決定するとともに,同リピドAは化合物506と同程度の強い内毒素活性を発揮し,また,TLR41MD-2を介して細胞を活性化することを明らかにした.S.marcescensリピドAは易感染性宿主において重篤な症状を惹起する病原因子として重要であると考えられる.
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