研究概要 |
1.健常有歯顎者における測定 まず,本研究で用いる舌圧センサシートの有用性を確かめ,舌腫瘍患者の舌圧との比較に用いるコントロール群とするために,若年有歯顎者30名の嚥下時舌圧を測定した.その結果,正中前方部に設置されたCh1に最も高い値が認められた.一方,正中後方部に設置されたCh3がもっとも低い値となった.また,左右差は認められなかった.これらの結果は,我々が以前圧力センサを用いた測定した舌圧の結果と一致した. また,エイジマッチングのために高齢健常者の舌圧を測定した結果,高齢健常者の舌圧最大値は,若年健常者と比べて側方臼歯部では変わらなかったものの,正中部では前方・後方に関わらず低下しており,加齢による舌圧への影響が明らかとなった。これらの結果は,舌尖部の機能が低下する高齢者の傾向を反映していると思われた. 2.舌腫瘍患者に対する測定 舌腫瘍と診断された患者4名に対し,舌部分切除術の術前と術後において測定を行った.各患者の使用している上顎義歯もしくはあらかじめ製作しておいた厚さ1.2mmの口蓋床に,接着剤を用いてセンサシートを貼付して測定を行った.測定項目は水嚥下(15cc),空嚥下ならびに口蓋への最大押し付けとした.測定の結果,舌腫瘍患者の舌圧は術前・術後ともに健常高齢者と比べて低下していた.このことは,舌腫瘍の存在および術後の瘢痕収縮などが舌機能の低下をもたらしたためと思われる.また,前腕皮弁による再建が行われた症例では,術前術後において舌圧の大きさにほとんど違いは見られず,同時に行った30ccの水のみテストでも嚥下機能に低下は見られなかった.一方,再建が行われなかった症例では,手術前と比較して手術後には切除部位に対応した舌圧の減少が観察され,補綴装置製作などリハビリテーションの必要性が示唆された.
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