研究概要 |
咬合高径決定の指標となる下顎位を明らかにするために,「ん」持続発音時の下顎位の動態について検討を加えた.被験者は個性正常咬合の成人20名とし,被検音は「ん」とした.日内日間変動については,3名を無作為抽出し検討を加えた.計測時期1日3回とし,さらに,1つの時刻について3日連続で計測を行った.咬頭嵌合位を基準位として,被検音を日常会話時の強さおよび高さで各4回,約4秒間持続発音させた.下顎位が基準位から変化し始めた時点を起始点とし,起始点から1秒間隔で4秒後までの4ポイントを計測点とした.記録された発音時のsweep波形上で,基準位と各計測ポイントとの垂直方向における距離を計測した.各ポイントについて,4回の計測により得た値の平均値を被験者ごとに算出したのち,20名の平均値を求めた.得られたデータの分析により,1.「ん」持続発音時の下顎位は平均で0.4mmの開口量を示し咬頭嵌合位と極めて近接した値を示した.2.下顎安静位よりも有意に小さい値を示した.3.日内日間変動が少ない.という結果が得られた.以上より,「ん」持続発音時の下顎位は咬頭嵌合位に近接するとともに,安定性の高い発音位であることが明らかになった.また,無歯顎者5名において同様の検討を行ったところ,1.発音開始位を咬頭嵌合位とした場合,[n]持続発音の下顎位は咬頭嵌合位に近接するとともに,各計測ポイントにおける標準偏差が下顎安静位と比較し有意に小さく,安定した位置を示した.2.発音開始位を下顎安静位とした場合,[n]持続発音時の下顎位が咬頭嵌合位に近接するグループと下顎安静位と同程度の開口量を示すグループとに2分される傾向を示した. 以上より,[n]持続発音時の下顎位は,全部床義歯装着者においても咬頭嵌合位に近接するとともに,安定した位置を占める可能性が示唆された. 上記の内容を日本補綴歯科学会東関東支部第10回学術大会(平成19年2月25,大宮)にて発表した.
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