研究概要 |
まず,顎関節の中で重要な役目を担う関節円板について検討した。復位を伴わない関節円板前方転位症例に対し,確立したプロトコールをもとに,(1)スプリント療法単独,(2)スプリント療法+パンピングマニピュレーション,(3)スプリント療法+パンピングマニピュレーション+関節内洗浄療法,(4)スプリント療法+パンピングマニピュレーション+関節内洗浄療法+関節鏡視下手術の4グループに分け,治療前後の関節円板の変化をMRIで検討した。対象は,復位を伴わない関節円板前方転位を示した85関節で,初回撮像は初診時から1か月以内,治療後の撮像は最終治療後約1年で行うことができ,治療奏効の判断基準を満たした症例である。治療内容の内訳は,(1)が11関節(12.9%),(2)が33関節(38.9%),(3)が9関節(10.6%),(4)が32関節(37.6%)であった。治療効果判定は,当科の診断基準(Ohnuki T, et al. : Magnetic resonance evaluation of the disk before and after arthroscopic surgery for temporomandibular joint disorders. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 96(2):141-148,2003)を用いた。この結果,(1)〜(4)のいずれの治療群においても約10%の関節しか復位せず,約90%の関節が復位を伴わない前方転位の状態のままであった。関節円板の前方転位の程度については,上記(4)の治療群において,治療後,有意に前方転位の程度が大きくなっていた。関節円板の可動性については,治療後に,すべての治療群でmobileを示していた。治療前後の関節円板の形態の変化については,上記(3)および(4)の治療群において有意に関節円板の変形が進行していた。以上のように,プロトコールに基づいた一連の治療により,すべての顎関節で臨床症状は消失し,stuck discはmobileに改善したが,これらの治療によっても関節円板の位置および形態の改善がみられた症例は少なかった。したがって,関節円板の位置および形態と臨床症状とは必ずしも関連性がなく,症状の改善には関節円板の可動性が重要であり,円板の変形はリモデリングに関与していると考えられた。また,パンピングマニピュレーションで採取した滑液より分離した浮遊細胞は,現在培養中である。その細胞の由来および関節破壊と修復の関与については現在検討中である。
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