研究概要 |
われわれの研究室で開発した無細胞ヒト乾燥羊膜を口腔上皮細胞のscaffoldとし、この基質上で口腔上皮細胞を気相下培養する事により、マウスfeeder layerなどの未知因子を使用する事無く、口腔粘膜上皮本来の構造である培養重層上皮シートの作製を試みた。 口腔上皮細胞の培養は、Boyce & Hamの方法に準じ、各種添加物含有MCDB 153培地を選択した。実験の手順は、1,抜去歯から口腔上皮細胞を単離。2,口腔上皮細胞を2〜3継代培養。3,無細胞ヒト乾燥羊膜上に培養口腔上皮細胞を播種し4日間液相下培養。4,無血清培地のカルシウム濃度を上げ約3週間気相下培養。5,組織標本による形態学的・免疫組織学的検討。 口腔上皮細胞は、ヒト乾燥羊膜上で気相下培養を行っても増殖を続けた。複合培養重層上皮シートのH-E染色による形態学的検討では、口腔上皮細胞がヒト乾燥羊膜でほぼ均一な約10層以上からなる重層化が認められた。また重層化に伴う核の消失は認められず、すべての層で活性のある細胞がみられた。免疫組織学的検討では、cytokeratin 10/13、PCNA、laminin-5において、本来の口腔上皮と類似した発現を示した。さらに、stem-cellや上皮の活発な増殖能を示すマーカーであるkeratin-19では、正常な口腔上皮と比べ、培養上皮全層で著しい発現が認められた。 本実験結果より、口腔上皮細胞とヒト乾燥羊膜による複合培養重層上皮シートは正常口腔粘膜上皮と比較し、より高い細胞活性と増殖能があることが判明した。本複合培養重層上皮シートは、ヒューマンセルラインによる培養上皮シート開発における有望な供給源となり得る事が示唆された。この複合培養上皮シートの臨床応用により、歯周病により破壊された歯肉の再生や唇顎口蓋裂治療など、ヒューマンセルラインによる新たな移植法の確立が期待される。
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