研究概要 |
癌抑制遺伝子p53ファミリーとして同定されたp63は,6種類のisoformを有し,上皮の発生や分化に関与している。これまでにもさまざまな扁平上皮癌において過剰発現することが報告されているが,口腔扁平上皮癌においては,浸潤や進展に伴いその発現が低下するといった報告や,それに反して過剰発現しているとする報告などがあり,一致した見解は得られていない。そこで本研究では,舌扁平上皮癌におけるp63 isoform発現と臨床病理学的因子との関連を明らかにすることを目的とした。 材料および方法としては,当科で治療を行った舌扁平上皮癌症例34例の生検時標本および正常口腔粘膜10例を用い,抗ヒトp63抗体で免疫組織化学染色を行った。さらに舌扁平上皮細胞株SCC25, SAS, OSC20, HSC-2, HSC-3, HSC-4を用いて,TAp63およびΔNp63の各isoformに関して,半定量RT-PCRでmRNA発現の解析を行い,細胞生物学特性(浸潤能および増殖能)との関連を検討した。 結果としては,p63発現は正常口腔粘膜および舌癌にみられたが,舌癌における陽性症例率は34例中22例(64.7%)で,有意に過剰発現していた。臨床病理学的因子との相関性では,性別,年齢,腫瘍サイズ,頸部所属リンパ節転移および分化度との間に相関性はみられなかったが,浸潤型との間に相関性がみられた。p63 isoformの解析では,ΔNp63αにおいて癌細胞浸潤能および増殖能との相関が認められた。 p63は,舌扁平上皮癌において癌細胞浸潤に関与していることが示唆され,とくにp63 isoformΔNp63αは癌細胞浸潤および増殖能を反映し,分子標的となる可能性が示唆された。
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