研究概要 |
歯原性上皮細胞におけるNT-4,短縮型のスプライアントを含めたTrkBおよびp75の発現について,RT-PCR法により確認を行った。その結果,NT-4,p75,短縮型TrkB-T1の発現が確認された。NT-4の発現は,既にin situ hybridizationにより発生初期の歯胚上皮部分に特徴的に認められるとの報告があり,これを裏付ける結果となった。ラット脳RNAを用いたポジティブコントロールに比しても強い発現が確認された。さらに,糖脂質GM3およびLacCerを添加することによるNT-4の発現動態は,変化が認められなかった。このことから,糖脂質添加が,NT-4刺激に対するMAPKのリン酸化を増強させた機構は,受容体側の変化にあることが考えられた。また一方で,歯胚発生初期におけるNT-4の機能として,間葉部分への相互作用について検討する必要があると考えられる。NT-4受容体p75,TrkB-T1については,発生初期の上皮間葉の両方で発現があり,TrkBのスプライアントについてもTrkB-T1がメインに発現しているという報告と一致する結果が得られた。糖脂質およびNT-4の添加によって,P75の発現動態が上昇し,TrkB-T1は変化しなかった。糖脂質またはNT-4の添加によって分化マーカーの発現動態を動かした機構は,受容体側のp75の変化に起因することが推測された。 歯原性上皮細胞におけるNT-4シグナルについて,d-PDMPにより細胞本来が持つ糖脂質を枯渇させた上で,GM3およびLacCerを添加した場合のMAPKのリン酸化について実験を行った。通常の培地にd-PDMPを添加し,24時間経過後GM3およびLacCerを加え,24時間培養を行った細胞では,減弱していたMAPKのリン酸化が回復した。17年度からの一連の実験により,NT-4シグナル伝達過程において,糖脂質GM3,LacCerが関与していることが明らかになった。現時点では,糖脂質による受容体p75の発現誘導が考えられるが,p75,TrkBの反応性を高める別の機構があることも考えられる。 以上の結果について,2006年IADRにおいて『Neurotrophic Signaling is Regulated by Glycosphingolipids in Denta x1 Epithelial Cells』の演題で成果報告を行った。
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