本研究は、看護基礎教育終了後、社会人経験等なく、はじめて看護師として病院施設に勤務した新卒看護師の協力を得て実施した。本年度は、平成18年度5月〜10月までの約6ヶ月間、およそ2日/月の割合で新卒看護師2名の看護実践場面の参与観察と、その場面に関連した非構成的インタビューをおこない、新卒看護師の看護実践プロセスにおける思考様式を質的記述的に分析した。その結果、新卒看護師は患者の問題状況に気づくと、<過去の患者の反応を想起する><現在の反応と照らし合わせる>ことにより、直面している状況との対話を行なっていた。初めて経験する予想外の出来事に対しては、過去に見たことのある先輩看護師の実践状況と自分の今の状況とを重ね合わせて、先輩看護師の対処を参照し、対応する方略、<他者の実践状況と重ね合わせて対処を参照する>ことで解決を試みていた。また看護実践の中でのリフレクションには、<時間のマネジメント>が影響していた。こうした新卒看護師がおこなう、「看護実践の中でのリフレクション」に関わる根拠は、患者が今「希望していること」「気になっていること」に即した援助を重視する<患者の文脈に寄り添うことを心がける>という、【応答性】に基づく援助の志向であった。また、<納得できない実践についてのリフレクション><失敗した実践についてのリフレクション>からの学びは深く意味づけられ、患者のわずかなサインや反応からく状況を予測する>能力の形成につながっていた。また、問題状況との対話において<経験からの学びの意識的活用>をおこない、<時間のマネジメント>ができるようになると<立ち止まって考える><状況を吟味する>ことも可能になり、より深い状況の理解につながっていた。さらに、患者にこうなってほしいという<展望性>、介入的アプローチの機会を逃さず、柔軟に対応する<即興性><柔軟性>をもった実践を展開できるようになっていた。そうした実践の変化は、新卒看護師自身に<自己の看護レパートリーが拡がっている実感>をもたらし、積極的に自己の看護実践についてリフレクションすることを促進させていた。以上から、新卒看護師の実践能力向上において、先輩看護師が患者に看護を行っている場面を見る機会の保証、先輩看護師の看護ケア経験の語りを聞く機会の保証、自己の看護実践についてのリフレクションが重要であることが示唆された。
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