研究概要 |
本研究は、新しい治療を繰り返し受けることによって経過がより慢性的にたどり長期生存期にある再発がん患者の心理社会面を明らかにし、患者に包括的看護ケアを提供するためのケアプログラムを開発することを目的とする。本研究は、ナラティヴ(Narrative)の概念を用いた質的帰納的研究デザインの研究であり、ナラティヴ・アプローチを用いたフィールドワークを行い、患者の生活世界に即した声から体験の意味づけを明らかにする。それらを基礎資料とし、ケアプログラム開発に取り組み、患者への適切な生活支援をめざす。そのために初年度である平成17年度は、以下の2点に取り組んだ。 (1)看護学におけるナラティヴの概念の整理 近年、ナラティヴ(物語・語り)の概念を用いた対人援助への接近方法が注目されている。看護学領域においてもその有用性が報告されている(吉村,2005,松原,2005)。一方でナラティヴ論の看護学領域への導入は、社会学、医療人類学、臨床心理学、医学、教育学など多領域から影響をうけ混乱が生じている。そこで、ナラティヴ論に精通している研究協力者とともにまず看護学におけるナラティヴの概念の整理に取り組んだ。具体的には、2000年から2005年の間で我が国において刊行され看護学領域で参考にできると考えた4領域の文献から、ナラティヴ概念に関する記述を抽出し、共通点相違点を明らかにし、看護学におけるナラティヴ概念の今後の展望について考察した(研究発表1)。引き続き、我が国の看護学領域においてナラティヴ論がどのように導入され、活用されているのか実態を把握するために文献研究を行った(研究発表2)。本研究のフィールド調査に取り組むにあたり、ナラティヴの概念を整理にできたことは、今後の研究の進行にも大きな成果であった。また、これらの成果は、看護学分野でナラティヴ論に取り組む人たちにとっても有用な結果であると考える。 (2)研究フィールドに入る準備 本研究のフィールド調査の計画について、研究協力者であるがん専門看護師から定期的に実践的知識の提供を受けた。調査方法や対象に関する示唆だけでなく、がん看護実践が抱える現実的な多くの課題についての議論も活発であった。このことは、本研究の目的をより明確にすることに非常に役立った。がん看護学領域における研究では、より実用的な見地から看護研究者と実践者との共同研究が推奨されている(真壁,2003)。このような意味でも臨床に密着した問題改善に非常に意義深いと考える。
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