研究実績の概要 |
フォトン・アップコンバージョン(UC)とは、低エネルギー光を高エネルギー光に変換する現象であり、太陽電池・光触媒などエネルギー産出デバイスの効率を飛躍的に向上させうる技術として近年大きな注目を集めている。特に三重項―三重項消滅(triplet-triplet annihilation, TTA)機構に基づくアップコンバージョン(TTA-UC)は、太陽光レベルの弱い励起光により効率的な波長変換を達成しうる。しかし、近赤外光を可視光にUCする固体材料の実現は、ドナーがISCする過程でエネルギーを失ってしまい、また固体中でドナーが凝集してしまうことから容易ではない。そこで本研究では系間交差を経ないS-T吸収を示すドナーを用い、S-T吸収型ドナーをアクセプターからなる多孔性金属錯体中に凝集させることなく導入することで、近赤外光から可視光へのアップコンバージョンを示す固体材料の創出を試みた。ドナーとして近赤外域にS-T吸収を示すOs錯体を用い、MOFとしてZr6クラスターを発光性配位子であるCPAEBAが架橋したものを用いた。ドナーを導入したMOF結晶を1,3,5-Tri (1-naphthyl) benzeneのガラス中に分散させたところ、波長724 nmのレーザー励起により安定なアップコンバージョン発光を得ることに成功した。更に、ドナーからアクセプターへの三重項エネルギー移動効率は100%に近いことが分かった。従来はS-T吸収を示すドナーの凝集によりアクセプターへと固体中において効率よくエネルギー移動を行うことが困難であったが、本研究においてMOF中にS-T吸収型ドナーを凝集させることなく分散できたため、非常に効率の良い三重項エネルギー移動が可能となった。
|