研究実績の概要 |
多くの昆虫種は体内に菌細胞という特殊な共生細胞を発達させ、細胞内に有益な微生物を保持するが、昆虫が共生微生物をいかにして取り込み、維持するのかについては理解が進んでいない。本研究では異なる発生経路を示す菌細胞をもつ2種のナガカメムシを対象として、宿主-共生細菌間の相互作用と菌細胞の発生学的基盤の解明を目指した。
本年度は、ヒメナガカメムシにUbx-RNAiを施し、成虫の菌細胞に対する影響をFISH法と定量的PCR法で解析した。結果、Ubx-RNAi処理により8日後に菌細胞内の共生細菌の局在異常および存在量の減少が約3分の1の個体で見られた。ところが、各個体のRNAi効果のばらつきが大きく、対照区と比べて統計的に有意な差は見られなかったため技術の改善が望まれる。
次に、前年度シーケンスした菌細胞と脂肪体のRNA-seqリードをTrinityでアセンブルした結果、36万個以上のcontigを得たが、細菌様配列が多く混入していたため、共生細菌由来の配列を特異的に除きアセンブル条件を最適化した上で、発現変動解析、遺伝子クラスタリング、アノテーションを進めている。この結果から有意な差を持つ遺伝子を抜き出し、RNAiを実施してUbx-RNAiと同じ影響があるか確認する予定である。次に、ウスイロヒラタナガメムシ共生細菌とセグロヒメナガカメムシ共生細菌のゲノムを解析し、それぞれ506kbp(CDS=410,rRNA=6,tRNA=33), 572kbp(CDS=501,rRNA=3,tRNA=38)の環状全長配列を得た。近縁細菌種との比較解析を行い、別途論文発表する予定である。他にも、本研究に関連した一報の論文を国際学術誌に発表した(Kuechler et al. 2019)。
|