本研究では平成28年度の研究をベースとし、学級づくりや教師のあり方の視点から、生徒相互・教師生徒間の関係性について、教室談話分析を試みた。子どもたちが獲得してきた個々の学習経験や知識、学習方法等の学習履歴である「個人学習史」が、他者のそれと接触・交流することによって顕在化する「差異」により、新たな学びが生み出される。その瞬間や過程であり、Agar(1996)が「リッチ・ポイント」と表現したものや、バフチン(1929)が「独立性を保ちつつ、互いに融け合うことのないそれぞれが価値を持つ声たちによる真のポリフォニー」と表現する〈多声的〉な学びを学級文化との関連から研究した。 観察・発話記録の分析から、学習プロセスにおいて、いくつもの多種多様な〈声〉が生じ、個々の様々な知識や経験が〈声〉として表出され接触し、違和感や距離感としての「差異」を生み、驚きや意外性、疑問などを経由し、学習や関係性構築に貢献する「リッチ・ポイント」を導く。構成員個々が文化の担い手の主体として、省察的・俯瞰的な自分自身や自学級の捉えは、あたり前にいる環境の振り返りやとらえ直しという意味をも帯びていた。ある環境での事象や出来事の中で、構成員個々はそれぞれの立場での主体性を帯び、それは、能動的・受動的主体に区別でき、「リッチ・ポイント」創出の可否を左右する。 教師が、子どもたちの「個人学習史」を把握しようとし、「リッチ・ポイント」を意識することは有益である。その信念に基づいた継続的・反復的な語りかけや問いかけは、構成員個々の主体の質を変化させる。それは、構成員個々や集団としての学習機会の増加や学習の質的・量的両面での充実につながる。また、学級文化生成における特徴づけや方向づけ、子どもたちの学習創出や関係性構築、変容や深化にも寄与し、さらに、教師自らの教職専門性向上のための学習における変容や深化をも促進しうる。
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