<研究目的> 本研究は他者と連携・協働し若者の政治的主体化を促す地域連携カリキュラムとしての主権者教育の構築に当たり、デンマークの地方自治体のユースカウンシル(以下YC)の活動に着目して、YCと地方議会や学校との協働を明らかにすることを目的とした。YCは地方自治体が設置する、若者の意見聴取や政策提言の組織である。なお、本研究では、「政治」を制度的政治のみならず非制度的政治(シングルイシュー型・アドホック型)もその射程とし、若者主体で活発なYCにおいて、どのような若者層の政治参加が促されるのか、どのように主体形成がなされるかを検討した。 <研究の方法> 前年度に実施した、デンマークのYCへの郵送での質問紙によるパイロット調査をもとに、10年以上活発に継続する3事例を抽出した。3事例においては職員やメンバーへの半構造化インタビューの実施とYCの会議の参与観察を行った。データは、デンマークの政治学者Bangの「新しい政治的アイデンティティ」の理論枠組を手掛かりとして分析した。 <研究の成果> YCの形態や運営や自治体規模や地理的状況により多様だが、3事例は(1)若者の居場所を起点とし対面での人間関係が基盤となる伝統型(2)フェイスブックを効果的に活用するSNS型(3)地方議会と同様な形に構造化された議会型、といった特徴が見出された。3事例とも地方自治体、社会教育施設、若者団体からなる多分野連携で、若者の意思決定を支援するフォーマル・インフォーマルな仕組みを形成し、移ろいやすい若者の特性を受容する努力がなされていた。特に(3)の議会型は、メンバー選出の選挙や会議開催時の学校の協力が組織化され、「学校で獲得した民主主義の知識」を「実践することで学ぶ」という価値観が地方自治体・学校の双方で共有されていた。 本研究では自治体側の視点は明らかになったが、学校の社会科教育におけるYCの位置づけまでは検討できなかったため、今後の課題としたい。
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