本研究の目的は、聴覚障がい児を対象とした数学の授業での問いを創出し、追究する過程におけるICT活用の可能性について明らかにすることである。具体的には、次の3つ ; ①聴覚障がい児を対象とする数学の授業過程における問いの創出・追究プロセスの分析、②ICT活用の可能性についての理論的検討、③ICT活用の可能性についての実証的検討、を下位目標として設定した。 本研究は、次のような方法で進めた。文献講読によって授業を観察するための理論を構築した。構築した理論をもとに、授業観察・分析を行った。授業観察・分析からみえてきた課題を解決するための1つの方策として、ICT活用の果たす役割は何かを理論的に検討するために、文献講読や情報収集を行った。それらによって得られた知見をもとに、検証授業を行った。その際、講師を招聘し、ご助言をいただいた。それらをもとに、理論を再構築し、2回目の検証授業を行った。その際、講師を招聘し、ご助言をいただいた。 文献講読によって構築した理論をもとに行った授業観察・分析から、聴覚障がい児を対象とした数学の授業での問いを創出し、追究する過程における困難性の一端が次の2つ ; ①表面化されていない生徒の問いをどのように顕在化するか、②顕在化している生徒の問いを、教師と生徒、あるいは生徒同士でどのように共有するか、であることが示唆された。ICTは、教師と生徒、あるいは生徒同士のコミュニケーションを保障するために有効であること、思考過程を視覚化するために有効であることから、上記の困難を克服するための方策として、有効であることが理論的に明らかになった。ICTを活用することで、教師と生徒、あるいは生徒同士の対話を、教師が注意深く聞き取る契機となっていること、生徒がどのような問いを創出し、それをどのように追究しているか、その過程を、視覚化し共有する契機となっていることが示唆された。
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