研究実績の概要 |
本研究の目的は, 小学校理科授業の仮説形成場面における児童の困難を解消し仮説の形成を支援する指導方略の開発と、授業実践を通したその評価にあった。Peirceは仮説の形成に関する推論をアブダクションと名付け, 科学的推論の過程として位置づけているが、アブダクションはアブダクティブな示唆を得る段階とそれを吟味し仮説として採択する段階の2段階で説明されている。この、アブダクティブな示唆を得る段階については、それを支援する指導方略に関する研究が数少ない。認知心理学の諸研究では特定の視点を持つ仮説の集合を仮説フレームとしてとらえ、学習者が1つの仮説フレームに固着してしまった場合にはそれ以外の仮説フレームに属する仮説を形成しにくくなることが指摘されている。そのため、不適切な仮説フレームに固着している学習者にとっては適切な仮説フレームに気づくこと(仮説フレームの移行)が、問題解決にとって不可欠であるとされている。本研究では「児童の推論過程において実験素材を提示し実験方法を検討させることで, 仮説フレームの移行を促し, アブダクティブな示唆としての仮説形成を支援することができる」という研究仮説を設定しその検証を行った。 授業実践を通した検証の結果, 実験班で話し合い実験方法を検討する活動を通してアブダクティブな示唆が吟味され, 実験を通して検証するための仮説が採択される課程が観察された。また, 指導者によって実験素材が提示され実験方法の検討が促された以降には, それぞれの実験班が形成したアブダクティブな示唆の数は増加した。このことは導入した指導方略が, 生徒の仮説形成の思考において他の仮説フレームへの気づきを促進したことを表していると考えられる。以上の結果より、導入した指導方略が仮説の形成に有効であることが示された。
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