森林を舞台に行われる公開講座は自然への興味の入り口として有用なイベントである。中でも野生哺乳類観察プログラムは非常に興味を引き付けることがわかっていたが、日常生活の中でも観察できるポイントがあることを伝える映像教材は少なかった。本研究ではコウモリの特徴的な飛翔に着目し、360度撮影カメラとVR技術を使って、観察するポイントをわかりやすく伝える映像の記録法の確立を目的に、撮影に適した時間帯や照明の有無と、VR技術への応用の可能性の検証を行った。 調査は東京大学千葉演習林、田無演習林、生態水文学研究所で、7月から9月にかけて行った。 撮影に適した時間帯と撮影法の検証のため、夕暮れ時から夜間にかけて、照明の有無や、カメラの設置高など、条件を変えて複数回撮影を行った。田無演習林で日没前後に高頻度で出現するアブラコウモリが地上高5mに設置したカメラで黒い影程度に映ったが、個体を観察するには不十分な映像であった。そのほかはすべての場所、方法において、黒い影程度も撮影することはできなかった。照明が部分的で明るさが不十分であったことや、被写体が非常に小さく、高速で飛ぶことから、カメラの解像度やフレームレートが不十分で、撮影が困難であることが分かった。 黒い影程度に個体が撮影できた映像を、タブレットとヘッドマウントディスプレイで視聴すると、姿の詳細な観察はできないが、黒い影が不規則に出現すると同時に、バットディテクターによって可聴音に変換されたコウモリの超音波音声の変化を聞き取ることができ、コウモリの観察を疑似的に体験し、観察するポイントを伝える映像としてはおおむね良好であった。 現時点での機材では解像度など性能が不十分で飛翔するコウモリの撮影、映像記録は難しいが、今後も技術の進歩が期待される分野であり、高性能化に伴い、より鮮明で伝わりやすい映像記録ができる可能性が感じられた。
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