研究実績の概要 |
本研究では、絶滅の危惧に遭遇しているハヤチネウスユキソウ(Leontopodium hyachinense H. Hara et. Kitam.)の大量繁殖を目的としている。岩手県早池峰山に自生するハヤチネウスユキソウは、近年その数が減少し、岩手県版レッドデータブックにも記載され、絶滅が危惧されている。その原因は、入山者の増加、生育環境の変化および盗掘などがある。日本には、ウスユキソウ属は7種5変種が分布している。一方, ヨーロッパアルプスおよびピレネー山脈に分布する代表的な高山植物のエーデルワイス(Leontopodium alpinum)も同属であり、岩手県の早池峰山に生息するハヤチネウスユキソウ(L. hayachinense)とは近縁種である。そのハヤチネウスユキソウの保護および繁殖の基礎的な研究はほとんど行われていない. 今回の研究では、ウスユキソウ属4種の生育調査を行った。エーデルワイスは市販の種子を用い、ハヤチネウスユキソウ、シセンウスユキソウ(L. souliei)およびオオヒラウスキソウ(L. hayachinensevar. miyabeanum)は, 市販のもので鉢により栽培したものを使用した。葉身長は2.95~5.62cm, 葉幅長は0.28~0.48cmと披針形であり、特にオオヒラウスユキソウはいずれも最大の値を示し、その比率から4種の中ではやや楕円形であった。また葉色の比較は葉緑素計を用い、それぞれのSPAD値は, 12.7~44.63であった. 最小はシセンウスユキソウであり, 最大はオオヒラウスユキソウであった。倍数性の調査はフローサイトメーター用いて行った。その結果は、シセンウスユキソウは2倍体, エーデルワイスは4倍体であった。しかし、ハヤチネウスユキソウおよびオオヒラウスユキソウは高次倍数体であったが詳細は不明であった。葉片培養は、エーデルワイスの無菌播種由来の植物を用いて行った。葉片からのカルスは、置床約1ヶ月後に葉片の周囲から形成し、その割合は99%であった。カルスからのシュート誘導率は、BA8.8μmol添加した区が最も高く22.5%を示した。しかし一部カルスには褐変化が生じ、シュートが誘導されず枯死するカルスも観察された。今後、園芸植物として利用が拡大されれば、盗掘の抑制にもなり得る。
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