CYP4Fはフィンゴリモドなどの医薬品の代謝に関わっているが、これまで薬物間相互作用の解析はほとんど行われていない。医薬品副作用データベース(JADER)に報告されているフィンゴリモドの副作用症例を抽出し併用薬について調査したところ、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が多く併用されていることが判明した。そこで、本邦で承認されている6種類のスタチン(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン)を用いてin vitroの系でCYP4F2活性に対する阻害作用を検討したところ、プラバスタチン以外のラクトン体がCYP4F2活性を強く阻害(IC_<50>=1.36-8.62μM)し、また脂溶性が高い化合物ほど強い阻害作用を示す傾向があることを見出した。本研究課題では、これらスタチンのラクトン体によるCYP4F2阻害の作用機序のin vitroでの解明を目的とし、解析を行った。CYP4F2組換え酵素のルシフェリン-4F2/3 O-脱アルキル化酵素活性を指標に、阻害の速度論的解析を行った結果、いずれも非競合型の阻害様式を示し、K_1値は1.31~12.4μMであった。また、検討したスタチンはいずれもプレインキュベーションによってCYP4F2阻害を増強しなかった。ラクトン構造の重要性を明らかにするため、ラクトン誘導体(δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-オクタノラクトン、DL-メバロノラクトン、4-ヒドロキシ-6-メチル-2-ピロン)の阻害効果を検討したが、いずれも阻害作用を示さなかった。以上の結果から、スタチンのラクトン体はCYP4F2の直接阻害剤であり、またその阻害にはラクトン構造だけでなく薬物全体の構造が重要であり、その1つの要因として脂溶性の程度が高いことが重要であると示唆された。
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