【目的】ファスジルはクモ膜下出血発症後の脳血管攣縮に対する治療の第一選択薬として使用されるが、薬物性肝障害(Drug-induced liver injury ; DILI)の発現頻度が高いことが臨床上の課題となっている。具体的には急性期医療の現場において、ファスジルによるDILI発現に伴い、ファスジルの投与が中止となったことにより、脳血管攣縮を引き起こし、致命的となった症例も認められている。しかしながらファスジルに関して、DILI発症を予測することは困難であり、明確な発症機序も不明である。そこで本研究では、ファスジルのDILIに着目し、ファスジルの投与開始前の段階で、患者情報からDILI発現リスクの高い患者を分離することが可能であるかを検証することを目的として調査を行った。 【方法】2011年1月から2017年8月までに東京大学医学部附属病院の急性期病棟に入院していた患者を対象として、ファスジル使用患者に関して、患者基礎情報、疾患情報、検査値、投薬歴などの情報をカルテより抽出し、データベース構築を行った。作成したデータベースを元にして、DILI発症患者とDILIを発症しなかった(non-DILI)患者の比較を行った。 【結果および考察】年齢、性別、疾患情報に関しては、DILI発症と相関は認められなかった。一方、臨検値に関してはC反応性蛋白(CRP)で正の相関性が認められた。そこで、受信者動作特性(ROC)曲線を用いて解析を行った結果、CRPに関してはAUC値が0.780となり、DILI発症と最も強い正の相関性が認められた。今後は更に症例数を増やすとともに、DILI発症と相関する新たなバイオマーカーの探索を視野に入れて研究を行っていく。
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