既存の抗菌薬の効かない細菌、いわゆる耐性菌の増加は世界的な問題となっている。耐性菌増加の背景には抗菌薬の不適切な使用(誤用、過剰投与)が指摘されている。なかでも小児においては投与できる抗菌薬も限られており、抗菌薬適正使用を推進する上で非常に重要であると考えられる。2016年に発表された薬剤耐性(AMR)アクションプランにおいては抗菌薬の削減目標が示されており、削減の実現可能性に関しても考える必要がある。このような背景から本研究では国内における小児への抗菌薬使用の現状を解明することを目的とした。 方法としてレセプトデータを用いた記述統計を実施することとした。対象データは日本医療データセンター(JMDC)が保有する2013年1月から2015年12月の期間にATCコードとして抗菌薬を表す「J01」が定義されている薬剤を処方された、0~18歳の患者レセプトデータとした。このデータと診断名データを紐づけた。対象診断名データにはICD-10コードを用いた。抗菌薬を種類ごとに分類し、そのレセプトに関連付けられている診断名を調査することで、各分類の薬剤がどのような診断に用いられているかを調査した。 その結果、処方件数は第三世代セファロスポリン、マクロライド、ペニシリン、フルオロキノロンの順に多かった。診断名については急性気管支炎をもつレセプトが多く、第三世代セファロスポリンが処方されているレセプトではおよそ24%、マクロライド系では36%が定義づけた感染性の診断をもたず、一定数の非感染性処方があることが示唆された。この研究においては患者背景の詳細な検討は困難であることが研究の限界である。一定数の非感染性診断に対する抗菌薬投与があることを念頭に、抗菌薬の過剰投与抑制に努めていく必要があると考えられる結果が得られた。
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