放射線治療では、患者ごとに最適な投与線量を決定し、正確にその線量を腫瘍に照射する必要がある。そして、安全で過不足のない線量を投与するためには高精度に放射線を計測することが必要不可欠である。現在、正確に線量を測定する方法として電離箱線量計が用いられているが、その形状や材質の違いによって線量測定に不確かさが生じる。これらの問題を解消するため、擾乱係数が導入されている。擾乱係数を正しく設定することで、設定しない場合と比較して、より詳細な補正が可能になり、放射線治療の高精度化が期待される。そこで本研究は、高精度に放射線挙動を計算可能なモンテカルロシミュレーションを用いて、陽子線治療における擾乱係数の解析を行うことを目的とした。モンテカルロシミュレーションにはPHITS(Particle and Heavy Ion Transport code System)を用いた。本研究では、電離箱壁の厚さや材質が擾乱に影響を与えると考えられることから、電離箱壁の有無が線量分布に与える影響について、電離箱線量計の壁有りモデルと壁無しモデルを作成し、エネルギースペクトルを取得して評価した。その結果、壁無しモデルに比べて、壁有りモデルで10keV~100keVのエネルギー帯の電子の増加が認められた。このことから、このエネルギー帯の電子が擾乱係数に影響を与えている一因であることが示唆された。今後は臨床運用まで発展させるために、より臨床に近い条件でシミュレーションを行い、更なる計算精度の向上や実測を行うことが課題である。
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