研究実績の概要 |
背景・目的 : 睡眠は、感覚経験を記憶として固定化する役割がある。また、記憶の神経基盤となっているのは、シナプスにおける「長期増強」というメカニズムであると考えられている。申請者の属する研究チームでは、記憶の固定化に重要となる大脳皮質トップダウン経路を発見している。そこで申請者らは、東京大学河西研究室において新しく開発された「長期増強により新生・増大したスパインを特異的に蛍光標識し光で操作できるプローブ(As-PaRacl)」(Hayashi-Takagi et al., Nature 2015)を導入することで、大脳皮質トップダウン入力と学習に伴う長期増強の間にある因果関係を明らかにし、記憶メカニズムを解明することを目指した。 研究方法 : 新規プローブ(As-PaRacl)を、特定の神経細胞種に特異的に発現させることができるウイルスベクターを作製するため、この蛋白質プローブをコードする遺伝子配列の両端にloxP配列を挿入し、DNA組み換え酵素Creを発現している細胞のみに部位特異的組み換え反応が生じるように、プラスミドトランスファーベクターの組み換えを行った。さらに、そのプラスミドを増幅・精製し、そこから作製されたAAV(アデノ随伴ウィルス)をマウス生体脳内に導入し、検証を行った。 研究成果 : 大脳皮質5層錐体細胞特異的にCreを発現する遺伝子改変マウス(Rbp4-Cre)に上記の蛋白質プローブを導入し、睡眠を必要とする記憶課題をマウスに行わせ、学習前後のスパイン動態を2光子顕微鏡イメージングにて観察した。その結果、大脳皮質5層錐体細胞のうち、学習で活性化した細胞において新生・増大したスパインだけを特異的にAS-PaRaclで標識することに成功した。今後、皮質トップダウン入力の受け手である細胞群の樹状突起スパインに記憶が貯蔵される過程を、直接的に明らかにすることができると期待される。
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