研究実績の概要 |
【背景】血清アミロイドA(SAA)は主に肝臓で生成される急性期反応タンパクであり、肝臓より分泌されたSAAの90%以上が高比重リポタンパク(HDL)と結合することが知られている. 先行研究によりリコンビナントSAAをHDLに作用させると, HDLの抗粥状動脈硬化作用の鍵となるアポリポタンパクであるアポリポタンパクA-I(apoA-I)がHDLから脱離することが明らかになった. また, 炎症性疾患患者の血清中のHDLにはSAAが豊富に含まれていたが, 患者ごとにSAAが局在するHDL亜分画は著しく異なっていたことがわかった. しかしながら, 炎症の過程において分泌されたSAAがどのHDL亜分画に親和性があるか, また, HDLに含まれるSAAが他のリポタンパクへ転送されるかについては明らかになっていない. 本研究では, SAAとHDL3, HDL2などHDL亜分画への反応性の解析および各種炎症性疾患患者血清を用いたSAAの各種HDL亜分画への分布の変化について研究を行った. 【方法】 本学医学部倫理審査委員会で承認を受けた計画に基づき、検査終了後の残余検体を対象として使用した. 1. SAAと各種HDL亜分画との反応性の解析 : 超遠心によりHDL2, HDL3を分離し、リコンビナントSAAをそれぞれのHDLに反応させSAA含有HDLを作製, 反応性の違いや粒子サイズ, 表面荷電などの変化を調べた. 2. 各種炎症患者のHDL亜分画の解析 : 炎症の程度の異なる患者のHDLよりさらにHDL3, HDL2, apoE含有HDLなどのHDL亜分画を分離, 電気泳動やHPLCによって解析し, 炎症の過程において, SAAが各種HDL亜分画間への分布にどのような変化が認められるかを解析した. 【結果】 本研究によりSAAは粒子径8-10nmのHDLに結合しやすく、結合後はHDL粒子内に存在し、HDLのアポリポタンパクとして存在していることが確認できた. また外科的手術を施行された症例の手術前後の検体を使用してSAA濃度の経時的な変化に伴うSAA-HDLの構造変化について解析を行ったところ、SAA濃度の上昇に伴って、SAAはより大きなHDL粒子に存在するようになり、炎症の軽減とともに炎症前と同様の分布に戻ることが認められ、SAA濃度の増加に伴う表面荷電の変化より、性質も変化させることが明らかになった.
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