研究実績の概要 |
極長鎖脂肪酸(VLCFA)は、炭素数22以上の脂肪酸で, 脳白質や副腎皮質では、コレステロールエステル、糖脂質、スフィンゴ脂質などに含まれ, ペルオキシソーム病などの診断の指標となっている。本研究は、ヒト血清を用いてエレクトロスプレーイオン化質量分析により、VLCFAの大部分が含まれるスフィンゴ脂質分子種、とりわけスフィンゴミエリン(SM)分子種(異なる脂肪酸側鎖から構成される分子)の精度の高い臨床検査法の構築を目的として実施した。今回の研究では、未精製では分析困難であった血清SMについて、脂質分解酵素による前処理を行うことで簡易的に試料を調整することができた。これまでのマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOF MS)による測定結果と比較して、ESI MSを用いたSM分子種分析法では、健常者血清SM分子種組成比についてほとんど同様の結果を得た。また、今回の研究で構築した分析法では、血清必要量25μLと微量化することができ、すべてのSM分子種(16分子種)において同時再現性が、CV=1.5~14.7%、アッセイ間再現性が、CV=4.0~15.0%とMALDI-TOF MSよりも良好な精度を得た。さらに、1検体あたりの全工程に要する時間は、1時間30分未満となり、臨床検査に応用できる可能性を示した。健常者血清SMプロファイルを作成し、健常者では炭素数23(C23)以上をもつSM分子種を5分子同定し、組成比と濃度を算出することができた。現在、臨床との共同研究により疾患別のプロファイルを作成しており、健常者プロファイルから疾患特異的なVLCFAの変動の解析を検討している。
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