眼圧(眼球内圧)の維持は眼内を循環する房水の産生と線維柱帯からの流出のバランスによって規定される。緑内障眼では線維柱帯におけるCollagenやFibronectinなどの細胞外マトリクス(ECM)の異常増加が房水流出抵抗の増大の原因として知られている。本研究は房水の流れ(水流機械刺激)が線維柱帯細胞に与える影響に着目し、細胞外マトリクスのターンオーバーに関わるタンパク質の発現変化について検討した。実験には平行平板型流れ負荷装置を用い、一定した水流機械刺激をヒト線維柱帯細胞に与え、コントロールには静置培養した細胞を用いた。水流機械刺激負荷後のCollagen及びFibronectinタンパク質発現量をウェスタンブロッティング法で評価した。また細胞内のECM発現について免疫染色法を用いて評価した。また、ECMの分解酵素であるMatrix metalloproteinase(MMP)の活性はゼラチンザイモグラフィーで評価した。 その結果、静置した線維柱帯細胞上清中のCollagen及びFibronectinの発現は上昇するが、水流機械刺激を負荷した細胞では抑制されていることがわかった。さらに培養上清中におけるMMPの活性も同様に抑制されていることがわかった。一方、細胞内のECM発現量には変化が見られなかった。 これらのことから、静置条件下の線維柱帯細胞は房水通過が障害されている緑内障眼での反応として捉えることができ、反対に水流機械刺激を加えた細胞の状態は正常眼として捉えることができる。水流機械刺激がECM発現に影響することで、眼圧の恒常性維持に関与している可能性が示唆された。本研究で得られた知見をもとに、今後さらなる緑内障の病態解明及び治療薬の発見が期待される
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