研究課題/領域番号 |
17H04272
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
外科学一般
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
千住 覚 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (50274709)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2019年度)
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配分額 *注記 |
16,640千円 (直接経費: 12,800千円、間接経費: 3,840千円)
2019年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2018年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2017年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | がん治療 / 免疫細胞療法 / マクロファージ / インターフェロン / 多能性幹細胞 / iPS細胞 / 免疫細胞治療 / インンターフェロン / マウスモデル / 再生医療 / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
胃がん、膵臓がん、大腸がんなどの消化器がん治療の分野において、腹膜播種転移および肝転移の治療法の開発は、大きな課題である。また、原発性肝臓がんの治療手段として、切除手術、経皮的局所治療、あるいは化学療法等の選択肢があるが、病巣が多発性に散在している場合は、いずれの治療法によっても根治は困難である。以上の現状から、腹膜播種がん、および、多発性肝臓がんに対してより有効な治療法の開発が求められている。 多くのがん組織中に、マクロファージの浸潤が認められる。マクロファージの抗腫瘍効果に関しては古くから報告があるが、近年は、腫瘍局所のマクロファージが、がんの局所浸潤や転移を助長することを示す報告が相次いでいる。一方で、マクロファージが有する腫瘍組織指向性を利用した新たな治療法の開発の可能があると考えられ、研究代表者は、マクロファージに対して人為的に抗腫瘍活性を付与し、担がん患者に投与することにより、がんを治療することを創案した。 ヒトのiPS細胞由来のミエロイド系細胞に増殖因子(cMYC+BMI1)を導入することにより増殖能力を有するミエロイト系血液細胞(iPS-ML)を作製する方法を開発している。iPS-MLは、生理的なマクロファージと同様に腫瘍組織へ集積する性質を有している。また、M-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)の存在下において持続的に増殖するため、大量生産が可能である。これまでの研究において、インターフェロン(IFN)を発現させたiPS-ML(iPS-ML/IFN) を、転移性および原発性肝臓がんのゼノグラフトモデルに投与することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制できることを確認している。本年度の研究では、この技術を用いて、代表的な難治性がんである腹膜播種および肝転移を伴う進行がんに対する免疫細胞治療の効果をマウス同種腫瘍モデルを用いて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトiPS―MLに相当するマウス細胞として、ES細胞に由来する増殖性ミエロイド細胞(ES-ML)を作成し、これにIFNβあるいはγを発現させてES-ML/IFNβあるいはES-ML/IFNγを作成し治療細胞として使用すした。まず、腫瘍組織へのES-ML/IFNの浸潤を観察する目的で、Colon26細胞に緑色蛍光タンパク(GFP)を発現させ、これをマウス腹腔内に投与した。その後、赤色蛍光色素PKHで標識したES-ML/IFNを投与した。その結果、ES-ML/IFNが腫瘍組織に集積し、かつ、腫瘍内部まで浸潤することを確認した。 ES-ML/IFNによる腫瘍に対する治療効果を検討する目的で、肝転移がんおよび腹膜播種がんの同種モデルの樹立を行った。Colon-26細胞(マウス大腸がん細胞株)に、ルシフェラーゼの遺伝子を導入し、Colon/luc細胞を作成した。これをマウスの肝左葉被膜下に接種することにより、大腸がんの肝転移モデルを作成する実験系を樹立した。また、Colon/luc細胞をマウスの腹腔内に投与することにより腹膜播種モデルを作成した。これらのがん転移モデルでは、ルシフェリンを腹腔内に投与した後、体外から発光を検出することにより、マウスを開腹することなく、肝臓内あるいは腹腔内における腫瘍進展を、経時的に観察することが可能である。 肝転移がんおよび腹膜播種がんモデルのいずれにおいても、ES-ML/IFNβによる治療を行うことにより、有意な腫瘍増殖抑制効果と生存の延長を認めた。今年度の研究において使用したColon26細胞を用いた実験では、ES-ML/IFNγの投与による治療効果は認められなかった。ES-ML/IFNβとES-ML/IFNγを同時に投与することにより、ES-ML/IFNβ単独投与の場合よりも高い治療効果を認めた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、同種モデルにおいて、マウスES-ML/IFNを用いた免疫細胞療法が、大腸がんの肝転移と腹膜播種転移の両方に対して有効であることを確認することができた。 I型(αおよびβ)およびII型(γ)IFN(インターフェロン)は、様々な種類の腫瘍細胞に対して、直接的な、細胞死誘導効果および増殖抑制効果を有している。培養系において、本年度の研究において腫瘍モデルを作成する目的で使用したColon26細胞にこれらのIFNを添加すると、細胞増殖の抑制、および、細胞死の誘導が観察される。この結果から、In vivoの腫瘍モデルにおいて観察されたES-ML/IFNの投与による腫瘍増殖抑制効果には、IFNの直接的な抗腫瘍作用が寄与しているものと考えられる。 一方で、IFNが、生体内において、T細胞、NK細胞、マクロファージ等の免疫細胞の抗腫瘍活性を誘導する作用が知られている。したがって、ES-ML/IFNの投与による腫瘍増殖抑制効果には、IFNにより宿主免疫細胞が活性化され貢献した可能性もあると考えられる。 今後は、ES-ML/IFN治療による、宿主免疫細胞への影響について検討する。IFNの作用により、腫瘍組織において免疫応答が増強されているかどうかを検討するために、腫瘍所属リンパ節における各種免疫細胞の数的な変化および活性化状態を解析する。また、CD4およびCD8T細胞の腫瘍組織への浸潤が、ES-ML/IFN治療により促進されるかどうかを腫瘍組織の組織学的解析により明らかにする。さらに、ES-ML/IFN治療群と無治療群の担がんマウスの脾臓と所属リンパ節からT細胞を採取し、腫瘍抗原に対して感作されているかどうか、ex vivo解析により検討する。
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