研究課題
基盤研究(B)
肺炎球菌が自己溶菌することは,古くから知られていた.また,近年の病理診断から,ヒトの肺炎球菌感染部位には,好中球が多量に浸潤することも明らかになっていた.さらに,国内外の感染症の専門臨床医が,好中球に内在するプロテアーゼの阻害剤を投与すると,肺炎重症化を軽減できると報告されていた.しかし,これらを総合的に捉え,分子解明した研究論文は国内外に存在していなかった.そこで,肺炎が重症化する分子機序について,肺炎球菌側とヒト好中球側の2方向から網羅的な質量分析解析を実施した.ついで,肺炎球菌側とヒト側の解明データを統合し,肺炎重症化に関与する分子候補群を同定した.
誤嚥性肺炎を含めた肺炎は,耐性菌の出現と高齢社会を迎え増加・重症化している.2016年以降,日本政府および国連が,具体名を挙げて肺炎を人類の最脅威のひとつに定義している.WHOならびに国連の最新試算では,抗菌薬以外の対策を考案できなければ,2050年以降は毎年1000万人の死者が出ると予測されている.本研究の結果,肺炎球菌だけが好中球を敢えて周囲に集積させて好中球を傷害し,同細胞の内容物を利用して感染拡大を行うユニークな知見を掴んだ.今後は本研究成果に加え,好中球を利用する肺炎球菌の病原機構を詳細解析し,その制御法へと繋げることができる.
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