IFRS9(国際財務報告基準)では健全な信用リスク管理のために予想信用損失会計が導入され、その精緻な推定が求められている。また、国際的な金融システムの健全性の強化を目的にしたバーゼル規制は、銀行に対して様々なリスクを推定し、それに備えた自己資本を積み立てることを義務付けている。信用リスク(銀行の貸付債権から生じる損失)は銀行の抱えるリスクの大部分を占めており、その正確な推定が求められる。近年、信用リスク研究の中でも特にLGD(デフォルト時損失率)という、「貸出に占める損失の割合(= 1-回収率)」の推定が重要になっている。 29年度の研究計画は、①機械学習等の手法に関して、統計学、機械学習分野で用いられる方法によってLGDと説明変数の関係を分析する、②日本固有の特徴の解明、特に銀行は規制産業であり、国による規制に伴って各国に特徴があるため、国際比較を通して、日本特有の特徴を明らかにする、③貸出データに含まれる大量の説明変数の洗濯方法に関しての研究を行う、ことである。 本年は①、②に関しての研究を行った。①に関して。これまでの研究で作成した2段階LGD推定モデルの推定精度改良を試みた。具体的には、医療分野で用いられている機械学習を用いた確率分岐モデルが複数提案されているが、それらを2段階LGD推定モデルに組み込み、その推定精度に関しての比較研究を行った。②に関して。符号制約付き回帰モデルに関する研究を行った。効率的に膨大な説明変数の中からモデルに組み込む説明変数を選択する方法に関しての知見を獲得した。
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