研究実績の概要 |
本年度の初めの1か月半は,昨年度末に引き続きヴァージニア大学に滞在し,Huanchen Bao, Weiqiang Wangと量子対称対の i-標準基底に関する共同研究を行った.特に,今まで知られていた結果よりも広いクラスの表現に対して,その i-標準基底の存在を証明した.また,その応用として直交斜交スーパー・リー代数のBGG圏の既約指標を完全に決定した.本研究の主な研究対象であるカジュダン・ルスティック多項式は,i-標準基底の一例であるため,一般の i-標準基底に関する上記の共同研究は,本研究を遂行するための重要なステップとなった. 次に,AIII型の量子対称対の「大域的 i-結晶基底」という概念を導入し,その基本的な性質を調べた.この研究によって、大域的 i-結晶基底は,AIII 型の量子対称対の表現や i-標準基底の構造を調べる基本的な道具となることがわかった.特に,カジュダン・ルスティック多項式を量子対称対の表現論として捉えることが可能になった. 最後に,上記の結果を応用して「周期的カジュダン・ルスティック多項式の有限性」という問題に取り組んだ.周期的カジュダン・ルスティック多項式は通常のカジュダン・ルスティック多項式と異なり,アフィン量子対称対の表現の i-標準基底の一例である.アフィン量子対称対は2つの AIII 型の量子対称対で生成される代数であるため,周期的カジュダン・ルスティック多項式をその2つの量子対称対に制限することで,その性質を詳しく調べることができる.これによって上記の問題はいくつかの具体例では解決されたが,完全に一般的な状況で解決するには至らなかった.これは,AIII 型の量子対称対の表現の i-標準基底や大域的 i-標準基底についての理解をさらに深めていくことで解決できると考えている.
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