研究実績の概要 |
遷移金属触媒によるクロスカップリング反応は有機合成化学において必要不可欠な方法論の一つである。その一方,環境負荷の大きなハロゲン化物や有機金属試薬を用いることが課題として残されていた。そこで本研究では,ハロゲン化物の代わりに安価で入手容易なフェノール誘導体,有機金属試薬の代わりに汎用性の高い化合物とのクロスカップリング反応を開発することを主たる研究目的とし,研究を遂行した。平成29年度は「ロジウム触媒を用いたフェノール誘導体とベンゼンとのクロスカップリング反応」の開発に従事し,フェノール誘導体の炭素-酸素結合と汎用性の高いベンゼン誘導体の炭素-水素結合とのクロスカップリングを開発した。(Angew. Chem. Int.Ed. 2017, 56, 1877.)本反応の達成の鍵は,高い電子供与能で知られるN -ヘテロ環状カルベン配位子を2つ持つロジウム錯体の調整法を確立し,活用したことである。このロジウム錯体は,通常切断が困難なフェノール誘導体の炭素-酸素結合を切断するのに有効であることを明らかにした。ここで得られた活性の高いロジウム触媒を利用し,平成30年度は「ロジウム触媒によるイソプロパノールを還元剤とするフェノール誘導体の還元的切断反応」(Synlett 2017, 28, 2569.),ならびに「ロジウム触媒によるプロパルギルアルコールをアルキニル化剤とするフェノール誘導体のアルキニル化反応」も報告することができた。(Org. Lett. 2018, ASAP.)フェノール誘導体の炭素-酸素結合の切断にはニッケル触媒が有効であることが既に明らかとなっている。しかしながら,本研究で開発した3つの反応はニッケル触媒では進行しない形式であり,ロジウム触媒に特有の反応形式であることは特筆に値する。
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