研究実績の概要 |
飢餓は多くの動物において、強力な危険シグナルとなり、行動変化を誘導する。線虫C.elegansは、塩濃度と飢餓を結びつけて記憶し、飢餓時の塩濃度を忌避する学習行動を示す。この学習には、インスリン様シグナル伝達が関わることが知られ(Tomioka et al., 2006, Neuron)、インスリン受容体の2つのアイソフォームのうち、1つが軸索に移動して学習に必須の作用を持つことが知られていた(Ohno et al., 2014, Science)。 本研究では、一般にインスリン経路の下流で働くFOXO型転写因子(DAF-16)に着目し、解析を行った。DAF-16が機能する神経細胞において、時期特異的な分解誘導系(オーキシンデグロン系)を導入し、DAF-16が学習時に機能する可能性を見出した。また、DAF-16は飢餓時に核に強く局在することが知られていたため、DAF-16が機能する神経細胞において、GFP融合型DAF-16の細胞内局在を観察した。その結果、飢餓時にDAF-16が核に移行することを示し、その作用には軸索で働くものとは異なるインスリン受容体のアイソフォームが細胞自律的に関与することを明らかにした。さらに、DAF-16の下流では、DAG/PKC経路と神経ペプチドの経路が働くことを示す結果を得た。回路レベルの解析も行い、DAF-16のシグナルを伝達する下流の介在神経の候補を見出した。 本研究により、飢餓シグナルが行動変化を駆動する機構の一端を解明できた。また、DAF-16の作用機序を軸としたインスリン経路の下流のメカニズムに加え、単一神経細胞の細胞体と軸索でインスリン経路が働き、両者は遺伝学的に独立した機能を有することを明らかにした。
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