研究実績の概要 |
バイオ燃料電池はエネルギー分野や農業分野あるいは医療分野への応用が期待されるバイオデバイスである。とくに金属タンパク質の酸化還元反応を用いたバイオ燃料電池の高性能化において、より高い電極特性を達成するためには、タンパク質と電極材料間の効率的電子移動の実現が強く求められる。そこで、金属タンパク質を電極上に多点で固定化し、活性中心となる補因子の配向性を制御する系を構築するために、合成化学的アプローチと生化学的アプローチを統合した金属タンパク質-電極材料複合化手法の確立をめざした。具体的には活性中心に補因子ヘムを有する電子伝達タンパク質シトクロムb562をモデルタンパク質に選定した。シトクロムb562の二点固定化に向け、前年度見出したN末端選択的な機能性分子修飾剤である1,2,3-トリアゾールカルボアルデヒド(TA4C)を用いたN末端選択的なアジド基の導入を試みた。 合わせて、TA4Cの簡便な合成手法の開発に取り組んだ。従来法において、TA4C誘導体はアルキンとアジドを前駆体とし、銅を触媒とする環化付加反応(CuAAC反応)により調製していたが、反応後に煩雑な精製操作を必要とする点が課題であった。本研究では、トリアゾールカルボアルデヒドに特徴的なDimroth転位反応を活用し、アミンを前駆体とする簡便かつ精製操作が不要のTA4C調製法を確立した。本手法を用いることで、市販されているアミン前駆体を一段階でTA4C誘導体へと変換し、タンパク質修飾へと直接用いることが可能となった。本手法は、反応剤と市販のアミン前駆体を混合、加熱するだけでN末端修飾剤を簡便に調製できるため、有機合成化学を専門としない生化学・薬学・医学分野の研究者も容易に実施可能である。今後、本手法を用いた抗体薬剤複合体の構築やバイオハイブリッド材料への応用が期待される。
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