細胞の自発運動は細胞運動の根幹にあり、走性運動は自発運動にバイアスがかかったものとして説明される。特に、運動速度や直進性といった細胞運動の性質は、自発運動の制御により大きく変化する。つまり、細胞運動の制御には自発運動の理解とその制御技術が必要となる。本研究では、PIP3をはじめとした、自発運動を制御するシグナル伝達分子の作る局在形成メカニズムの解明を目指した。 これまでに、局在パターンは、Rasの制御が中心となって形成されること、PIP3の合成がRasの局在パターン形成に部分的に寄与していること、すなわち、PIP3からRasに対するフィードバック制御が存在することを解明した。本年度は、この知見を軸にRasの局在パターン形成を担う分子の探索をおこなった。細胞性粘菌の持つ全てのRaGEFを対象として、局在パターン形成において中心的な役割を果たす因子の絞り込みをおこなった。これらのタンパク質について、GFP融合蛋白質の過剰発現プラスミドを作成し、これを細胞性粘菌において過剰発現させ、各分子の局在場所を調べた。従来の局在観察手法では、2種類でのみ細胞膜上での局在が観察された。一方、全反射照明蛍光顕微鏡を用いた方法では、13種類の分子が細胞膜上で局在変化を示していることがわかった。この結果は、これら13種類のRasGEFが、Rasの局在パターンの制御に関与している可能性を示唆している。今回候補として同定されたRasGEFについて更なる解析を進めることで、GTP型Rasの局在パターンを作るシグナル伝達ネットワークの全容の理解に繋がると期待している。
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