研究実績の概要 |
運動時には、運動強度が高くなるにつれて体温低下時のふるえの感受性は低くなることが示唆されていることから、同一深部体温におけるふるえの反応は強度依存的に抑制されることが予想される。また、運動時には安静時よりもふるえの深部体温閾値が低温側にシフトすることで、ふるえの開始が遅れる可能性が示唆されているが、運動強度が増加することによってふるえの深部体温閾値がどのように変化するかは明らかではない。そこで、本年度は、先行研究で用いた運動強度よりも高い強度で運動した場合に、ふるえの深部体温閾値が見られるかどうかを検討した。健康な成人男性9名を被験者とし、陸上で5分間の安静を保った後に、水温18℃の冷水に腰部までの安静浸水を5分間行った。その後、水中において低強度自転車運動 (回転数:30 rpm、負荷:30-60 W、運動時の酸素摂取量は安静時の2倍程度) を行った。測定項目は、食道温、皮膚温、酸素摂取量、心拍数、動脈血圧、全身および皮膚温度感覚とした。ふるえの特性は食道温に対して酸素摂取量をプロットし、酸素摂取量が増加し始める深部体温閾値および閾値以降の感受性を検討した。また、全身の温度感覚は0 -8 (0: 我慢できないほど寒い, 4: 快適, 8: 我慢できないほど暑い) のスケールを用いて測定し、皮膚温度感覚は温度プローブを皮膚に接触させ、プローブの温度を変化させることで測定した。本実験では、腰部までの冷水浸水 (18℃) に低強度運動 (安静時の約2倍の酸素摂取量) をおこなった場合には十分に深部体温を低下させることができず、ふるえの深部体温閾値は得られなかったが、運動時には同一深部体温であっても安静時より温度感覚が鈍化する (冷たさを感じにくくなる) 可能性が示唆され、これが先行研究で見られた運動時のふるえ抑制に関わるメカニズムの1つである可能性が考えられる。
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