本年度は、主に以下の成果1、2を得た。 1.近世後期における補助動詞テモラウの東西差について ①複文を構成し、受け手にとっての迷惑を表すタイプ(例,モシお家さん,あんたからサウくづれてもらい升と,内証の事が世けんへしれて,わたしの身にかゝり升。(上方,滑稽本,諺臍の宿替))が,江戸語では僅かにしか見られず,上方語にまとまった例が見られる。②サセテモラウ(例,アノ私しや妾宅になりましたらのせの妙見さんや春は伊勢参りもさしてもらふはへ(上方,洒落本,十界和尚話))は,江戸語では僅かにしか見られず,上方語にまとまった例が見られる。③上方語が江戸語よりも先行してテモラウの用法を拡大させている。 2.中古~近世後期における受身文の様相について ①「其顔で色気があられちやァ糞色だ(滑稽本,浮世床)」のような,受身文の主語が動詞の項成分とならず,物理的な影響を受けない例が近世後期から見られるようになる。②近世後期から「こう上に乗ていられては,とふも下くゞつたかゐがないは。(滑稽本,諺臍の宿替)」のようなアスペクト形式を受身助動詞に前接する例が見られるようになる。③近世後期から「モフこんな重たいめをさゝれると,どふやら肩かへたいわいナア。(滑稽本,諺臍の宿替)」のような使役助動詞を受身助動詞に前接する例が見られるようになる。 以上の成果は、日本語における授受動詞史、ヴォイス史の一端を明らかにしたものといえる。
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