本研究の主な目的は,TiNi基形状記憶合金において発現するマルテンサイト変態(M変態)の前駆現象(Commensurate-Incommensurate転移:C-IC転移)を結晶学的,熱力学的および機械的影響を調査し,また単結晶材における低温域における応力ヒステリシス(σhys)の温度依存性を調査し.低温域で動作する超弾性合金への応用を探索することである.以前の研究成果によると,Ti50.0-xNi40.0+xCu10.0合金においてC-IC転移はNiを過剰に添加することにより,DSC曲線のブロードなピーク(Intermediate相:I相と呼称)として観察できることを見出した.本年度は,Ni過剰にしたTiNi基合金に着目しC-IC転移の本質とそのM変態へ与える熱力学的影響の調査を目的とし,研究を行なった. TiNi合金にFeを2at%以上Feを添加することで,M変態前にC-IC転移が存在することが先行研究によって知られている.そこで,本年度はFeを3at%添加したTi50.0-xNi47.0+xFe3.0合金を用いて,Ni過剰側におけるC-IC転移に伴う比熱および結晶構造の変化を調査するとともに,Ni過剰側のM変態の相図も決定した.その結果,Niの増大とともにM変態温度は低下する傾向が見られた.また47.4at%Ni以上でI相に起因するブロードな比熱のピークを観察した.このC-IC転移のピーク温度は,Ni組成に依存せずほぼ一定である.TEM観察の結果,I相を経てR相となる場合(Ni量が41.4at%以上),I相の微細ナノ組織をほぼ維持したまま明瞭な双晶界面を持たないR相が形成されることを観察し,I相はM変態に影響を与える重要な相転移であることを見出した.この結果は,2018年3月の金属学会で発表し,これから論文に投稿する予定である.
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