研究実績の概要 |
平成30年度は、米国・ダートマス大学においてAmie Thomasson教授の指導のもとで研究を行い、(1)フッサールの哲学の方法論と彼の超越論的観念論という哲学的立場の関係の解明、および(2)フッサールによる本質の認識論における「様相と規範の結びつき」というアイディアの展開、という2つの課題に取り組んだ。 (1)に関しては、昨年度の研究成果である先行研究のサーベイを踏まえ、フッサールの超越論的観念論に関するどんな解釈もその観念論的な側面と実在論的な側面を調停しなければならないことを指摘し、従来の解釈はいずれもこの点に関して不十分であることを明らかにした。さらに、両側面を調停するための新たな解釈モデルとして、The Global Deflationary Interpretationを提唱した(学会発表 "Husserl's Transcendental Idealism as a Global Deflationary Realism"; "Ingarden's Challenge, A Husserlian Answer: Debate on Transcendental Idealism Revisited")。この解釈の意義は、何が存在するかという問いに関わる存在論と、その方法論に関わるメタ存在論を区別することで、フッサールは存在論に関しては実在論者であるがメタ存在論においては反実在論者であるという解釈の可能性を開くところにある。 (2)に関しては、Wilfrid Sellarsの"Counterfactuals, Dispositions, and the Causal Modalities" (1958) における立場や、それを洗練させたRobert Brandomの「様相に関するカント・セラーズテーゼ」、Amie Thomassonの「様相規範主義」などがフッサールの立場と近いという仮説のもとで、これらの検討を行った。検討の結果、彼らはみな「様相と規範の結びつき」という考えを共有しているものの、フッサールは規範の身分に関してより実在論的な立場をとっているのに対して、Sellars, Brandom, Thomassonの立場はよりプラグマティズム的であることが明らかになった。
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