研究課題
特別研究員奨励費
ウイルスは広く蔓延している病原体であり、様々な疾患へ関与する可能性が示唆されている。糖尿病の成因分類のうち、1型糖尿病においてウイルスが発症に関与していることが強く示唆されているが、発症機序の詳細は明らかになっていない。ウイルス糖尿病モデルであるマウス脳心筋炎ウイルスD株(EMC-D)誘発糖尿病の感受性には、単一の遺伝子座が関与していることが示唆されているが、EMC-Dウイルス感染により糖尿病を発症するDBA/2マウスの感受性遺伝子は未同定である。昨年に引き続き、DBA/2マウスのEMC-Dウイルス誘発糖尿病感受性遺伝子の同定に向けた解析を行なった。EMCV-D感染マウスからFlow cytometryを用いて膵β細胞を高純度に単離し、網羅的な遺伝子発現解析を行うことで、膵β細胞における抗ウイルス反応を詳細に検討した。EMCV-D感染2日目のマウスから単離した膵β細胞の解析によって、DBA/2マウスの膵β細胞は B6マウスの膵β細胞に比較し、Signal transducer and activator 2 (Stat2)遺伝子発現の上昇が乏しく、その結果、自然免疫関連の遺伝子発現が低いことが示唆された。未感染状態でのStat2発現に差は認められなかったが、EMCV-D感染後にはDBA/2マウスの膵β細胞のみでB6マウスよりもStat2遺伝子発現が約40%低下していた。マウスへIFN-βを投与後、膵β細胞を単離し遺伝子発現解析を行なったところ、DBA/2マウスの膵β細胞はB6マウスに比較し、Stat2遺伝子発現誘導が乏しかった。さらに、ウイルスの増殖はDBA/2マウスの膵臓でのみ有意にB6マウスよりも増加していた。従って、DBA/2マウスは、1型IFN刺激に対する膵β細胞特異的なStat2発現上昇の乏しさによって膵β細胞が破壊され、EMC-Dウイルス誘発糖尿病を発症することが示唆された(Mine K et al. BBRC. 2020)。引き続き、膵β細胞におけるStat2遺伝子発現の意義を解析している。
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