研究課題
特別研究員奨励費
本年度は、葉酸欠乏による歯状回の神経成熟異常について形態学的解析を行った。ゴルジ染色法により可視化した神経細胞についてショールアナリシス法を用いて解析したところ、葉酸欠乏マウスの歯状回では樹状突起の長さや分岐数が減少しており、神経細胞形態の複雑性が減少していることが明らかとなった。また、葉酸欠乏マウスの歯状回ではスパイン密度や成熟スパイン数が減少するとともに未熟スパイン数も増加しており、スパインの成熟過程においても異常が生じているものと考えられた。一方で、CA1領域およびCA3領域では葉酸欠乏による神経細胞の形態的異常は観察されなかった。さらに、15分間の強制水泳ストレスを負荷した2時間後の葉酸欠乏マウスでは対照マウスと比べて歯状回におけるc-Fos(神経活動マーカー) 陽性細胞数が減少しており、葉酸欠乏下の歯状回神経細胞で機能的異常が生じている可能性が考えられた。また、葉酸欠乏マウスにおける歯状回神経細胞の形態学的、かつ機能的異常は、メチル基供与体であるS-アデノシルメチオニン(SAM)を14日間腹腔内投与することで改善された。本年度までの検討結果から、葉酸欠乏マウスではSAMの生合成が減少することでDNAメチル化に異常が起こり、神経細胞の成熟に必要な遺伝子の発現制御が十分に行えない状態になっているものと推定される。すなわち、SAM生合成低下による神経成熟関連遺伝子のエピジェネティックな発現制御異常が歯状回神経細胞の形態学的・機能的抑制をもたらし、その結果、うつ様行動が出現するものと考えられる。本研究成果から、葉酸欠乏性うつ症状の病態メカニズムの一端を科学的に示すことができたものと考えている。また本研究で得られた知見、すなわち適切量の葉酸を摂取することの重要性を啓蒙することにより、うつ病の予防や治療に貢献できることが期待される。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of Pharmacological Sciences
巻: 143 号: 2 ページ: 97-105
10.1016/j.jphs.2020.02.007