研究実績の概要 |
ステンレス鋼の(Mn,Cr)S介在物の溶解挙動に及ぼす介在物中Cr濃度の影響を解析した。放電プラズマ焼結法を用いて介在物組成を系統的に変化させた試験片を簡便に作製する方法を開発し、(Mn,Cr)S中のCr濃度を変化させた試験片を作製した。SUS304Lステンレス鋼ガスアトマイズ粉末に対して、MnS粉末またはCr2S3粉末を混合し、放電プラズマ焼結を行うことで、人工(Mn,Cr)S介在物を有するモデル試験片を作製した。焼結試験片中の人工介在物の化学組成をSEM/EDSで分析したところ、ステンレス鋼粉末とMnS粉末を混合して焼結した試験片には、Mn: 25~40at.%、Cr: 10~25at.%、S: 50at.%程度を含むMnリッチな(Mn,Cr)Sが存在していた。ステンレス鋼粉末とCr2S3粉末を混合して焼結した試験片には、Mn: 10at.%、Cr: 40at.%、S: 50at.%程度を含むCrリッチな(Mn,Cr)Sが存在していた。人工(Mn,Cr)S介在物を一つだけ含む電極面(約100μm×100μm)を作製し、25℃の0.1 M NaCl溶液中において動電位アノード分極曲線を測定した。(Mn,Cr)S中Cr濃度の増加とともに、(Mn,Cr)Sの溶解が開始する電位と孔食電位が貴に移行した。(Mn,Cr)S中のCr/(Mn+Cr)原子比が約0.5のときに(Mn,Cr)Sの溶解開始電位が約0.6 Vに達し、ステンレス鋼の過不働態域とほぼ同じ電位となり、Cr/(Mn+Cr)比を0.5以上にしても溶解開始電位にほとんど差はみられなかった。したがって、25℃の0.1 M NaCl溶液中において孔食電位を過不働態域まで上昇させるためには、(Mn,Cr)SのCr/(Mn+Cr)比が0.5以上であることが必要であることを見出した。
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