研究実績の概要 |
本研究では、固体中の電子がつくる磁気構造を活かして熱を高効率で電力に変換する材料(高性能熱電材料)の理論的提案を目指した。代表者らは前年度までに、特に渦型磁気構造"スキルミオン"が2次元で周期的に並んだ“スキルミオン結晶” (SkX)が、巨大熱電効果を示す高性能熱電材料のプロトタイプであることを見出していた (Y.P. Mizuta and F. Ishii, 2016)。しかし、なぜSkXがそのように振る舞うのか未理解であった。また、単純な原子結晶構造上のSkX (モデルⅠ)の話であったことから、結果の現実性も疑問であった。そこで当該年度においては、(1) SkX(モデルⅠ)が巨大熱電効果を示す機構の詳しい考察、および (2) 現実性の高いSkX(モデルⅡ)で期待される熱電効果の評価に取り組むこととした: (1) SkX(モデルⅠ) 中の電子による熱電効果の振る舞いは、その電子を、外部磁場で曲げられながら進む荷電粒子と見做す古典論で概ね満足に理解できた。この解釈は、その電子を量子論で捉えたときの、状態空間の幾何学(トポロジー)的な捩れ具合を表す整数 (Chern数)の列が、外部磁場の下で期待される列に酷似していたことから正当化された。結局、SkXは外部磁場と似た性質の有効磁場を介して巨大熱電効果を生みうる磁気構造であることが分かった。 (2) 一候補物質として選定した酸化ユーロピウムの薄膜上にSkX構造を仮定し (モデルⅡ)、その電子状態を第一原理計算で導いて熱電効果を評価した。確認された振る舞いは(1)の解釈が成り立たないものであったものの、条件次第では大きな熱電効果が見込まれた。 これら(1)と(2)の成果の意義は、SkX状態にある物質群の中に高性能熱電材料が埋もれている可能性を示唆する点にある。
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